東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)21号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願発明と第一引用例ないし第三引用例記載の発明との構成及び作用効果上の差異を看過した結果、第一引用例記載のポリウレタン溶液を用いる方法に代えて、第二引用例記載の繊維製品の加工方法を適用することは、当業者が容易になし得るものであり、また、本願発明の効果は、右の各引用例記載の効果に比して格別のものではないとの誤つた認定判断をし、ひいて、本願発明をもつて右の各引用例記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、本件審決の認定判断は、正当であり、原告の右主張は、理由がないものというべきである。
前記本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本件公報)及び第三号証(昭和五六年九月二四日付手続補正書)を総合すると、(1)本願発明は、スエード調起毛織編物の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、優れたライテイング効果(チヨークマーク性)、反撥弾性、しわ回復性及び風合を有するスエード調起毛織編物の製造方法に関するものであるところ、従来、極細繊維からなる起毛布帛に弾性重合体、特に、ポリウレタン重合体を付与することによつて、スエード調布帛を製造することは公知であり、例えば、特公昭五〇―一三八七九号特許公報(本件における乙第一号証)には、海島型の複合繊維から得られた、単繊維デニールが〇・八a以下の極細繊維の束からなる糸を緯糸とし、仮撚加工糸又は複合潜在捲縮繊維からなる糸を経糸として構成された織物を起毛し、ポリウレタン重合体のエマルジヨン又は有機溶液を含浸せしめることからなるスエード調織物の製造法が開示されており、また、特開昭五一―七〇三六六号公開特許公報には、繊維形成性ポリエステルからなる構成部分と繊維形成性ポリアミドからなる構成部分が、交互に隣接して少なくとも四個環状に配置され、かつ、繊維の長手方向に伸び全体として管状体を構成している、極細繊維発生型の中空複合繊維から構成された起毛織編物に、ポリウレタン重合体の溶液を付与して得られるスエード調織編物が開示されているが、これらの先行技術においては、すべてポリウレタン重合体の有機溶剤溶液又はエマルジヨンが使用されているけれども、ポリウレタン重合体を有機溶剤溶液で使用する場合には、環境のコントロール及び溶剤廃液の処理等において困難な問題を生ずるし、ポリウレタン重合体のエマルジヨンを使用する場合には、エマルジヨンの安定性が悪く長期間の保存が困難であり、布帛の加工処理中にマングルロールや被処理布帛にポリウレタン重合体が塊状に付与するいわゆるガムアツプを起こしやすいという欠点があり、更に、ポリウレタン重合体を起毛織編物に含浸せしめてスエード調織編物を製造する場合には、得られた製品の性能の点でも大きな問題、すなわち、ポリウレタン重合体はその高分子量のゆえに起毛織編物内部まで均一に含浸せしめることが困難であつて、必ずしも起毛織編物の反撥弾性やしわ回復性が改良されず、また、特にポリウレタン重合体を高濃度(例えば、約五%エマルジヨン濃度以上)で使用する場合には、起毛面が紙状になりスエード調起毛織編物の特徴であるライテイングエフエクトが著しく悪くなるという欠点があつたこと、一方、特開昭五〇―一五五七九四号公開特許公報(第二引用例)及び特開昭五〇―一〇八三九五号公開特許公報には、遊離のイソシアネート基が重亜硫酸塩でブロツクされたウレタンのプレポリマーが開示されており、かかるウレタンのプレポリマーは水系における溶液安定性が良好でガムアツプを起こさず、該プレポリマーで加工処理された通常の織編物は反撥弾性、防しわ性、防縮性等が改良されることが開示されているが、この明細書中には、該ウレタンのプレポリマーを極細繊維から構成された起毛織編物の加工に用いることについては何らの記載も示唆もなされていないこと、(2)本願発明の発明者は、極細繊維から構成された起毛織編物の加工に、従来用いられていたポリウレタン重合体のエマルジヨンに代え、前記特開昭五〇―一五五七九四号公開特許公報(第二引用例)及び特開昭五〇―一〇八三九五号公開特許公報に開示されたウレタンのプレポリマーの水性液を用い、特定条件下で特定量付着せしめれば、ガムアツプ等の工程上のトラブルが全くないことはもちろん、それに加えて、ポリウレタン重合体の使用からは全く予想することができなかつた優れた作用効果が得られることを知見したこと、(3)本願発明は、右の知見に基づき、前記欠点の解消を目的ないし課題として、本願発明の要旨(特許請求の範囲1の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成し、天然スエードに近い風合と外観を有し、ライテイング効果に優れ、反撥弾性や防しわ性にも優れているスエード調起毛織編物を得ることができるという作用効果を奏するものであることが認められる。他方、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された公開特許公報であることについて原告の明らかに争わない第一引用例には、本件審決の認定のとおりの技術事項の記載があることは原告の認めるところであり、これに成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)を総合すると、(1)第一引用例記載の発明は、スエード調擬革の製造法に関するものであり、更に詳しくは、天然のスエードに極めて類似し、かつ、性能的には天然のスエードより優れている極めて品位の高いスエード調擬革の製造法に関するものであるところ、第一引用例記載の発明の発明者は単一フイラメントを更に多数のフイブリルに分割し得る接合フイラメント及びこれを使用した擬革の製造について研究した結果、特定の接合構造を有する接合フイラメントからなるトリコツトサテン地を特定条件で製造する場合、表面の立毛が極めて細いフイブリルよりなり、かつ、立毛密度が極めて高い優美な外観、光沢及び顕著なチヨークマーク性を有するスエード調擬革を生成し得ることを見いだしたこと、(2)第一引用例記載の発明は、右の知見に基づき、具体的には、繊度が一デニール以下、好ましくは〇・五デニール以下、最も好ましくは〇・三デニール以下のポリアミド及びポリエステルの極細繊維からなる起毛織編物に、ポリウレタン(ポリエーテル型ポリウレタンジメチルフオルムアミド溶液)を、起毛織編物の重量を基準として三重量%ないし四〇重量%含浸又は塗布し、水中で凝固せしめた後、洗浄乾燥し、起毛面を研磨する構成を採用し、これにより、優美な外観及びチヨークマーク性並びに良好な風合を有し、かつ、機械的強度も十分で縫製性も良好なスエード調擬革を得るという作用効果を奏するものであることが認められる。
そこで、本願発明と第一引用例記載の発明とを対比考察するに、本件審決の認定のとおり、両者は、ポリエステル及びポリアミドから構成されている極細繊維を含有する起毛織編物に、ポリウレタンを付与し、その後起毛織編物表面をバフイングしてなるスエード調起毛織編物の製法に関するものである点で同一であり、また、右極細繊維の単繊維デニールも同一範囲であり、更に、起毛織編物に対するポリウレタンの付与量も格別差異がないが、起毛織編物にポリウレタンを付与する方法として、本願発明では、遊離のイソシアネート基が重亜硫酸塩でブロツクされた分子中に一〇重量%ないし四〇重量%のオキシエチレン鎖を含有している親水性かつ熱反応性のウレタンプレポリマーのpHが五・〇ないし七・〇の範囲にある水性液を起毛織編物に付与し、次いで、一〇〇℃ないし一八〇℃の温度で熱処理し起毛織編物中にポリウレタン重合体を形成せしめるのに対し、第一引用例記載の発明では、起毛織編物にポリウレタン(ポリエーテル型ポリウレタンジメチルフオルムアミド溶液)を含浸又は塗布し、水中で凝固せしめた後、洗浄乾燥し起毛織編物中にポリウレタン重合体を形成せしめる点で相違していることは、原告の認めるところであるから、右相違点について検討すると、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された公開特許公報であることについて原告の明らかに争わない第二引用例には、本件審決の認定のとおりの技術事項の記載があることは原告の認めるところであり、これに成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)を総合すると、(1)第二引用例記載の発明は、繊維製品の加工方法に関するものであるところ、従来、ポリウレタン樹脂又はウレタンプレポリマーを溶剤の存在により繊維製品に加工することはよく知られており、これらにより加工された繊維製品は、耐久性のある改良された風合、腰付効果、弾性回復性、防しわ性、防縮性、形態保持性及び抗ピリング性等が付与されるか、この場合には、使用する溶剤により、その毒性及び爆発引火性などの危険性が指摘され、溶剤加工自体に多くの問題が残されており、更には、ウレタンプレポリマーを使用した場合には、経時的にその溶液がゲル化を起こし、作業上不都合なことが多く、そのために、これら処理方法を水系に転換させるための種々のポリウレタン樹脂エマルジヨンが知られており、それには二つのタイプがあり、その一つは、ポリウレタン基質に多量の親水基を含ませ自己乳化性としたものであり、もう一つは、かなりの量の乳化分散剤を併用してポリウレタン樹脂を強制的に乳化分散せしめた強制乳化タイプであり、前者では、その組成ゆえに粘着性が残り、腰付効果、弾性回復性がなく、更には、耐洗濯性が劣るものがほとんどであり、後者では、前者よりも粘着性、腰付効果、弾性回復性、耐洗濯性などがかなり良化するものの、強制乳化のため乳化安定性が極めて劣悪であり、また、長期間の保存が困難であるうえ、加工処理中にマンクルロールや被処理繊維製品に加工剤自体が塊状に付着する、いわゆるガムアツプを起こすものがほとんどであつたこと、(2)右のような状況にかんがみ、第二引用例記載の発明の発明者は、水系において溶液安定性、ガムアツプ性について全く問題がなく、安心して使用することができ、かつ、前記溶剤加工法と同等の耐久性のある改良された風合、腰付効果、弾性回復性、防しわ性、防縮性、形態保持性及び抗ビリング性等の付加価値を付与する加工法を研究の結果、第二引用例記載の発明は、一〇重量%ないし四〇重量%のオキシエチレン鎖を含有するウレタンプレポリマーの遊離のイソシアネート基を重亜硫酸塩でブロツクした親水性かつ熱反応性ウレタン組成分を配合してなる処理液を繊維製品に適用し、乾燥加熱処理することを特徴とする繊維製品の加工方法の構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであることが認められ、右認定の事実によれば、起毛織編物にポリウレタンを付与する方法として、ポリウレタン重合体の有機溶剤溶液又はエマルジヨンを用いた場合の前認定のような問題点の解消を意図して、前示第一引用例記載の発明のようにポリウレタン(ポリエーテル型ポリウレタンジメチルフオルムアミド溶液)を付与する方法に代え、右の第二引用例記載の発明のように親水性かつ熱反応性ウレタンプレポリマー水性液を用いて熱処理する手段を適用することは、当業者が容易に想到し得ることであると認められる。また、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であることについて原告の明らかに争わない第三引用例には、本件審決の認定のとおり熱反応型水溶性ウレタン樹脂の一種である「エラストロン」の水溶液のpHの影響について記載されていることは、原告の認めるところであつてみれば、右の技術事項に基づいて本願発明で用いるウレタンプレポリマー水溶液のpHについて検討し、その使用範囲を決定することは、当業者が容易になし得るものと認められる(この点に関する右と同旨の本件審決の判断は、原告の争わないところである。)。そして、前認定の事実によれば、前認定の本願発明のライテイング効果(チヨークマーク性)は第一引用例記載の技術事項から、また、前認定の本願発明の反撥弾性及び防しわ性等の効果は第二引用例記載の技術事項からそれぞれ容易に予測し得る程度のものと認められる。以上によれば、本願発明は、第一引用例ないし第三引用例記載の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当である。原告は、第二引用例記載の発明においては、従来の加工品よりも優れた性能の繊維製品を得ようとすることは考えられていないのに対し、本願発明は、特定のウレタンプレポリマーを、特定の極細繊維を含有する起毛織編物に適用することによつて、従来のものよりも種々の性能の点でより優れた繊維製品を得ることができたものであるから、第一引用例記載のポリウレタン溶液を用いる方法に代えて、第二引用例記載の繊維製品の加工法を適用することは、当業者が容易になし得ることではない旨主張する。しかしながら、前認定とおり、本願発明は、従来のポリウレタン重合体の有機溶剤溶液又はエマルジヨンを用いる場合の欠点等の解消を目的として、親水性かつ熱反応性のウレタンプレポリマーの水性液を用いたものであるところ、第二引用例記載の発明も、前認定のとおり、ポリウレタン樹脂又はウレタンプレポリマーの溶剤(有機溶剤)あるいはポリウレタン樹脂の強制乳化タイプのもの(ポリウレタン重合体のエマルジヨン)を用いた場合に生ずる前同様の欠点を解消することを目的とし、その解決の方法として、親水性かつ熱反応性のウレタンプレポリマーの水性液を用いたものであり、しかも、本願発明の効果が前説示のとおり第一引用例及び第二引用例記載の技術事項から容易に予測し得る程度のものである以上、第一引用例記載のポリウレタン溶液を用いる方法に代えて、第二引用例記載の加工法を適用することは、当業者が容易になし得ることとみるのが相当であり、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。この点に関して、原告は、本願発明のガムアツプ等が改善されるという効果は副次的なものにすぎず、本願発明の本来の目的は、優れたライテイング効果、反撥弾性、しわ回復性及び風合を有するスエード調起毛織編物の製造方法を提供することにあるのに対し、第二引用例記載の発明においては、従来の加工品よりも優れた性能の繊維製品を得ようとすることは考えられていなかつたのであつて、本願発明の目的ないし課題は認識されていなかつた旨主張するが、前認定の事実によると、本願発明は、ガムアツプの改善にとどまらず、優れたライテイング効果、反撥弾性、しわ回復性及び風合を有するスエード調起毛織編物の製造方法を提供することをも目的ないし課題とするものであるところ、第二引用例記載の発明は、溶剤加工法によれば、右と同様の性能を有するものが得られることを前提としたうえ、溶剤加工法に代えて親水性かつ熱反応性ウレタンプレポリマーの水性液を用いる方法によれば、毒性及び爆発引火性など溶剤加工法が有していた危険性を除去し得るばかりか、溶剤加工法によるのと同等の性能を有するものが得られるとの知見に基づき、その構成を採用したものであつて、前記のような優れた性能を有するものを得ることをその目的ないし課題の一つとしていることは明らかであり、したがつて、原告の右主張も、採用の限りでない。また、原告は、本願発明は、通常の繊維よりも細い極細繊維を用いる起毛織編物へ、特定のウレタンプレポリマーを特定の加工法により適用し、これによつて、従来のものよりも種々の性能の点でより優れた起毛織編物が得られることを可能にしたものであるところ、この点については、第二引用例には何らの示唆もなされておらず、一方、第一引用例記載の発明においては、本願発明のようにスエード調起毛織編物の反撥弾性やしわ回復性の改良、特に、ライテイング効果を改善するという課題は全く意識されていないから、第一引用例と第二引用例とを組み合わせること自体、当業者にとつて、極めて困難なことである旨主張するが、通常の繊維よりも細い極細繊維を用いる起毛織編物にウレタンを付与する技術が第一引用例に開示されており、また、親水性かつ熱反応性ウレタンプレポリマー水性液を用いて熱処理する技術が第二引用例に開示されているとともに、本願発明が課題とする反撥弾性やしわ回復性の改良等はすでに第一引用例及び第二引用例記載の発明において意識されていたことは、前認定説示に照らし明らかであるから、これに反する事項を前提として第一引用例と第二引用例との組合せの困難性をいう原告の主張は、結局、採用するに由ないものといわざるを得ない。更に、原告は、本願発明は、本願発明の明細書記載の実施例1及び9と比較例1との対比から明らかなように、加工された繊維製品の曲げ弾性、防しわ性及びライテイング効果等の性能において、ポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液を使用する従来の加工法よりも格段に優れている旨主張するが、前掲甲第二号証(本件公報)によると、実施例1は親水性かつ熱反応性のウレタンプレポリマーの水溶液を用いたものであり、また、比較例1は実施例1の親水性かつ熱反応性のウレタンプレポリマーの水溶液に代えてポリウレタン重合体(メチレン―ジフエニル―ジイソシアネート、ポリエチレングリコール及び一・四―ブタンジオールの反応生成物)の水性エマルジヨンを用いたものであつて、ポリウレタン重合体の有機溶剤溶液を用いたものではないことが認められるところ、ポリウレタン樹脂又はウレタンプレポリマーなどポリウレタン重合体の有機溶剤溶液を用いる加工法によると、耐久性のある改良された風合、腰付効果、弾性回復性、防しわ性、防縮性、形態保持性及び抗ピリング性等が付与された繊維製品が得られるのに対し、従来のポリウレタン重合体の水性エマルジヨンを用いる加工法によると、加工処理中にマングルロールや被処理繊維製品に加工剤自体が塊状に付着する、いわゆるガムアツプを起こすことがほとんどであることは、第二引用例記載の発明に関連して先に認定したとおりであつて、従来のポリウレタンのエマルジヨンを用いる加工法によるものは、ポリウレタンの有機溶剤溶液を用いる加工法に比べて反撥弾性や防しわ性等が劣るものと認められるから、実施例1の加工法によるものが右のポリウレタンのエマルジヨンを用いた比較例1の加工法によるものよりも優れているとしても、このことから直ちに実施例1の加工法によるものがポリウレタンの有機溶剤溶液を用いる従来の加工法よりも優れた効果を有するものであると断ずることはできず(実施例9と比較例1との関係でも同様のことがいい得る。)、したがつて、実施例1及び9と比較例1との対比から本願発明の効果が格別のものであるとする原告の右主張は、採用することができない。更にまた、原告は、第二引用例記載の加工法によつては、従来の加工法で得られるのと同等の繊維製品が得られるにすぎないのに対し、本願発明の方法で得られるスエード調起毛織編物は、従来品よりも格段に優れているのであるから、本願発明の効果が第二引用例において指摘されているということはできず、また、本願発明のライテイング効果も、第一引用例に記載されているような従来技術のものに比べて優れていることは、本願発明の明細書の第1表に示されている実施例1及び9と比較例1との違いにみられるとおりであるから、本願発明の効果が第一引用例において指摘されているということもできない旨主張するが、本願発明の効果が第一引用例及び第二引用例記載の技術事項から容易に予測し得る程度のものであることは、前説示のとおりであり、また、本願発明の明細書の第1表に示されている実施例1及び9と比較例1との対比から本願発明の効果が格別のものというを得ないことも、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用の限りでない。なお、原告は、検甲第一号証及び第二号証を挙示して本願発明の効果の顕著性について主張するが、検甲第一号証は本願発明の明細書記載の実施例1の実施品、検甲第二号証は比較例1の実施品であるとして挙示するものであるところ、実施例1と比較例1との対比から本願発明の効果の顕著性をいうを得ないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張もまた、採用するに由ないものといわざるを得ない。なおまた、原告は、本願発明は当業者の予測することのできない格別の効果が得られるとの知見に基づくものであつて、かかる効果を看過して、本願発明をもつて第一引用例ないし第三引用例記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない旨主張するが、本願発明の効果が当業者の予測することのできない格別のものと認められないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、その前提を欠き採用することができない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
(1) 単繊維デニールが〇・〇〇〇一~〇・八デニールの範囲にあるポリエステル及び/又はポリアミドから構成されている極細繊維を含有する起毛織編物を作成する工程、
(2) 該起毛織編物に、遊離のイソシアネート基が重亜硫酸塩でブロツクされた分子中に一〇~四〇重量%のオキシエチレン鎖を含有している親水性かつ熱反応性のウレタンプレポリマーのpHが五・〇~七・〇の範囲にある水性液を、起毛織編物の重量を基準としてウレタンプレポリマーの乾燥重量で一~二〇重量%付与せしめる工程、
(3) 付与せしめられた起毛織編物を、一〇〇~一八〇℃の温度で熱処理し起毛織編物中にポリウレタン重合体を形成せしめる工程、
(4) 該ポリウレタン重合体を含有する起毛織編物の表面をバツフイングする工程、
からなるスエード調起毛織編物の製造方法。